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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)1154号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人戸田宗孝の上告理由第一点について。

論旨は、原判決が土地収用法七八条の拡張収用に関する収用委員会の裁決のうち損失補償に関する部分につき訴願を許さないと解することは、憲法一三条に抵触するとの上告人の主張を排斥した点に、理由不備の違法がある、と主張するにある。

しかし、原判決は、第一審判決の理由説示を引用して、土地収用法一二九条二項但書は同法七八条の拡張収用に関する収用委員会の裁決のうち損失補償に関する部分については、訴願を許さない法意に出たものと解すべきであるとしたうえで、上告人の前示主張に対し、いわゆる訴願前置主義を採るかどうかは立法政策に委かされているところであるから、土地収用法一二九条二項但書が右のごとき建前をとつたことの当否は、専ら立法政策の問題であつて憲法違反の問題を生ずる余地はないと判示していること、判文上明らかである。従つて、原判決が上告人主張のこれに反する論拠につきいちいち判断を示さなくても、判決理由の説示としては欠くるところはない、というべきである。

されば、論旨は、採用し得ない。

同第二点について。

論旨は、原判決は土地収用法一二九条二項但書括弧内の規定の解釈を誤つたものである、と主張するにある。

しかし、土地収用法一二九条二項但書括弧内の「第七十八条の規定による請求にかかる裁決」とは、原判決(その是認引用する第一審判決)のごとく、七八条の拡張収用に関する収用委員会の裁決のうち収用の目的物についての裁決のみを指し、損失補償についての裁決は含まないものと解するのを相当とする。

されば、原判決には所論の違法はなく、論旨は、叙上と相容れない独自の見解に立脚して原判決を攻撃するに過ぎないものであつて、採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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